東欧の秘宝「モルドバワイン」古代から続くぶどう王国の知られざる魅力


ヨーロッパの東端、ルーマニアとウクライナに挟まれた小国・モルドバ。日本ではまだ馴染みが薄い国ですが、実はこの地こそ“ワインの隠れた王国”と呼ばれるほど、古代からワイン造りの文化が根づいている国です。紀元前3000年にはすでにブドウ栽培が始まっていたとされ、世界でも最古級のワイン産地のひとつとして知られています。

 


■ ソ連時代を経て再び花開くワイン文化

モルドバのワイン史は、豊かな自然とともに歩んできました。黒海に近い温暖な気候と肥沃な土壌がブドウ栽培に理想的で、古くから高品質なワインが生まれてきました。
しかし20世紀、ソ連時代には大量生産が中心となり、品質よりも量を重視したワインづくりが進められました。その結果、「安ワイン産地」というイメージが定着してしまったのです。

 

 

1991年の独立以降、モルドバは再び伝統と品質を重んじる方向へと舵を切りました。小規模生産者によるクラフトワインやオーガニック栽培が増え、モルドバワインは新たな黄金期を迎えつつあります。現在ではEU市場にも輸出が拡大し、国際的なコンテストで高評価を得るブランドも増えています。

 


■ 4つのワイン産地とテロワールの個性

モルドバは小国ながら、気候や地質の違いから4つの主要ワイン地域に分かれています。

  1. コドゥル(Codru)地方
     国内最大のワイン産地で、丘陵地帯が広がり冷涼な気候。シャルドネやソーヴィニヨン・ブランなど、香り高い白ワインが多く造られます。

  2. ヴァルル・ルイ・トライアン(Valul lui Traian)地方
     南西部に位置し、日照量が豊富で赤ワインの名産地。カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローに加え、地元品種のフェテアスカ・ネアグラが力強い味わいを生み出します。

  3. シュテファン・ヴォダ(Ștefan Vodă)地方
     黒海の影響を受ける温暖な地域で、フルーティーで凝縮感のあるワインが特徴。近年、プレミアムワインの産地として注目されています。

  4. バルル・ルイ・トライアン(Bălți)地方
     北部の冷涼地で、軽やかで繊細な白ワインが造られます。リースリングやピノ・グリが良質です。

 

このように、モルドバは国土の広さ以上に多彩な表情を持つ“ミクロ・テロワールの宝庫”といえるのです。

 


■ 地元ブドウ品種の魅力:フェテアスカとララ・ネアグラ

モルドバワインを語るうえで欠かせないのが、固有品種の存在です。代表的なのは「フェテアスカ(Fetească)」系統。
「フェテアスカ・アルバ(白の乙女)」は白ワイン品種で、華やかな花の香りと爽やかな酸が特徴。軽やかでバランスの良い味わいは、和食にもよく合います。
一方、「フェテアスカ・ネアグラ(黒の乙女)」は赤ワイン品種で、ブラックベリーやスパイスのニュアンスを持ち、熟成によってしなやかなタンニンを見せます。

 

 

また、「ララ・ネアグラ(Rara Neagră)」という赤品種も注目株。果実味豊かでまろやかな口当たりがあり、ブレンドにも単一品種にも向く万能なブドウです。
こうした土着品種が、モルドバならではのアイデンティティを支えています。

 


■ 巨大ワインセラー「ミレスティ・ミチ」と「クリコヴァ」

モルドバには世界最大級のワインセラーが存在します。
首都キシナウ近郊の「ミレスティ・ミチ(Milestii Mici)」は、地下200km以上におよぶトンネルを持ち、約200万本のワインが貯蔵されている驚異のワイン洞窟。ギネスブックにも「世界最大のワインコレクション」として登録されています。

 

 

もう一つ有名なのが「クリコヴァ(Cricova)」の地下セラー。ソ連時代から続くスパークリングワインの聖地で、伝統的なシャンパーニュ方式を用いて上品な泡を生み出します。プーチン大統領やアンゲラ・メルケル氏が訪れたことでも知られ、モルドバ観光の目玉スポットです。

 


■ サステナブルで自然派志向のワインづくり

モルドバでは近年、サステナブルなワインづくりが広がっています。農薬や化学肥料を使わないオーガニック栽培、自然酵母による発酵、亜硫酸塩の使用を最小限に抑えたナチュラルワインなど、環境と調和した生産者が増えています。
こうした自然派ワインは、軽やかでフレッシュな味わいが多く、ヨーロッパの若い世代のワインラヴァーにも人気を集めています。


■ 日本で味わえるおすすめモルドバワイン

日本でも徐々にモルドバワインの取り扱いが増えてきています。代表的な生産者には以下のようなブランドがあります。

  • Purcari(プルカリ):19世紀から続く老舗。熟成感のある赤ワイン「Negru de Purcari」は国際的にも高評価。

  • Cricova(クリコヴァ):伝統的瓶内二次発酵によるスパークリングワインの名門。繊細な泡とミネラル感が魅力。

  • Asconi(アスコニ):自然農法にこだわる新鋭ワイナリー。フェテアスカ・アルバの白は爽やかでエレガント。

 

これらのワインは、価格も手頃で品質が高く、“掘り出し物ワイン”として注目に値します。

 


■ まとめ:古代の伝統と新しい挑戦が融合するワイン大国

モルドバワインは、長い歴史に支えられながらも、現代的な感性を取り入れて進化を続ける存在です。
土着品種の個性、手仕事の温もり、そして自然と共生する造り手たちの情熱が、一本のボトルの中に凝縮されています。
フランスやイタリアの陰に隠れた東欧の小国から、今、新しい風が吹いています。
“知られざるワイン王国”モルドバ。その一杯は、あなたのワインの世界を広げてくれるに違いありません。