寒い冬の夜、冷えた手を温めながらゆっくりと香りを楽しむ──そんな贅沢な時間に欠かせないのが「ホットワイン」です。
ワインを温め、シナモンやクローブ、オレンジなどのスパイスや果実を加えて作るホットワイン(英語では「Mulled Wine(マルドワイン)」)は、ヨーロッパでは古くから冬の定番ドリンクとして親しまれてきました。クリスマスマーケットやスキーリゾート、冬の家庭の団らんなど、さまざまな場面で人々の心を温める存在です。
ホットワインの起源は古代ローマ時代にまでさかのぼります。当時、ローマ人はワインを保存するために蜂蜜や香辛料を加え、時に温めて飲んでいました。この習慣がヨーロッパ各地に広がり、寒冷な地域では「体を温める飲み物」として発展していきます。
中世ドイツでは「グリューワイン(Glühwein)」と呼ばれ、クリスマス市の風物詩に。北欧では「グロッグ(Glögg)」、フランスでは「ヴァン・ショー(Vin chaud)」、イギリスでは「マルドワイン(Mulled Wine)」と、各国で独自のレシピと風味が生まれました。
国ごとに異なるスパイスの使い方や甘みの調整があり、それぞれの文化が息づく味わいを楽しめます。
ホットワインの魅力は、手軽に作れて自分好みにアレンジできるところです。基本となる材料は以下の通り。
材料(2人分)
赤ワイン:300ml
砂糖またははちみつ:大さじ1〜2
オレンジスライス:2〜3枚
シナモンスティック:1本
クローブ:2〜3粒
お好みでスターアニスやカルダモン、レモンピールなど
作り方
鍋にすべての材料を入れ、中火でゆっくり温める。
沸騰直前で火を止め、5〜10分ほどスパイスをなじませる。
茶こしなどでスパイスを取り除き、カップに注ぐ。
沸騰させてしまうとアルコールが飛んでしまうため、「温める」ことがポイントです。アルコールが苦手な方は、ノンアルコールワインやぶどうジュースで代用しても美味しく仕上がります。
ホットワインといえば赤ワインのイメージが強いですが、実は白ワインやロゼワインでも美味しく作れます。
白ワインの場合は、レモンやリンゴ、はちみつを合わせて爽やかに。
ロゼワインなら、ベリー類やローズヒップなどを加えて華やかな香りを楽しむのもおすすめです。
また、スパークリングワインを少しだけ加えて「微発泡ホットワイン」にするアレンジも人気が高まっています。
ホットワインは甘みとスパイスが効いているため、塩味や香ばしさのある料理と好相性です。
シナモンやナッツを使った焼き菓子(シュトーレン、アップルパイ)
チーズプレート(カマンベール、ブルーチーズなど)
ローストした肉料理(ラムや鴨)
スモークサーモンや生ハム
また、夜のデザートタイムに合わせてチョコレートやドライフルーツと楽しむのもおすすめです。特にダークチョコレートはスパイスの風味と好相性で、上品な大人の味わいを演出します。
ホットワインを作る時間には、他の飲み物にはない特別な「儀式性」があります。
ワインを温め、スパイスの香りを感じながら静かに待つ──そのプロセス自体が心を落ち着かせ、日々の喧騒から解放してくれます。
寒い夜にろうそくを灯し、ホットワインを片手に本を開く。あるいは家族や友人と談笑しながら香りに包まれる。そんな時間は、冬の幸せそのものです。
日本でも近年、ホットワインは人気が高まっています。特にクリスマスマーケットや冬のイベントでは欠かせない存在となり、各地で個性豊かなアレンジが登場しています。
国産ワインを使ったオリジナルホットワインを提供するワイナリーやカフェも増え、信州や北海道など寒冷地では地元産リンゴやハチミツを使った「ご当地ホットワイン」も注目を集めています。
また、キャンプやアウトドアでも人気。寒い夜に焚き火を囲みながら味わうホットワインは、格別の一杯となるでしょう。
アルコールを控えたい方や子ども向けには、「ホットぶどうジュース」や「スパイスアップルジュース」などのノンアルコール版ホットワインもおすすめです。
ぶどうジュースをベースにシナモンやオレンジを加えるだけで、まるで本格的なホットワインのような香りと味わいを楽しめます。
冬のティータイムに、家族みんなで楽しめる温かいドリンクとして人気です。
ホットワインは、単なる飲み物ではなく「冬を楽しむ文化」そのものです。
香り、味わい、温もり、そしてゆったりと流れる時間。
そのすべてが、私たちの心をやさしく包み込みます。
お気に入りのスパイスとワインを手に、自分だけのホットワインを作ってみませんか?
寒い夜に湯気の立つカップを手にすれば、きっと冬が少し好きになるはずです。