サッカー、カーニバル、アマゾンの熱帯雨林——ブラジルと聞いてまず思い浮かぶのは、陽気で多彩な文化かもしれません。しかし近年、世界のワインシーンで「ブラジルワイン」が注目を集めています。
その理由は、南米大陸の中でも特異な気候と地形、そしてヨーロッパ移民たちが持ち込んだワイン文化の融合にあります。情熱的でありながらも繊細な味わいを持つブラジルワインは、今まさに新しいワイン産地として進化の真っ只中にあるのです。
ブラジルでブドウ栽培が始まったのは16世紀、ポルトガル人によってもたらされたのが最初でした。しかし、熱帯性気候が多いブラジルではワイン生産に適した土地は限られており、本格的な発展を遂げたのは19世紀末のこと。
この時期、イタリア北部からの移民たちが南部のリオ・グランデ・ド・スル州に移住し、彼らが持ち込んだ栽培技術と情熱がブラジルワインの礎を築きました。特にイタリア系移民が多く住むセーラ・ガウーシャ地方は、今日でもブラジルワインの中心地として知られています。
ブラジルは南米最大の国であり、その国土は日本の約23倍。赤道直下から温帯まで続く広大な地形の中で、ワイン産地は主に南部の高地に集中しています。
リオ・グランデ・ド・スル州やサンタ・カタリーナ州などは標高が高く、昼夜の寒暖差が大きい冷涼な気候が特徴。これにより、ブドウはゆっくりと熟し、酸味と果実味のバランスが取れたワインが生まれます。
さらに近年は、北東部のバイーア州やペルナンブーコ州といった熱帯地域でも、灌漑技術を駆使したブドウ栽培が行われ、年間2回の収穫を可能にするなど、新たな試みも進んでいます。
1. セーラ・ガウーシャ(Serra Gaúcha)
ブラジルワインの心臓部ともいえる地域。冷涼で霧の多い山岳地帯が、芳醇なアロマとしなやかな酸を持つ白・スパークリングワインを育てます。特にスパークリングワインは国際的にも高評価で、「南米のシャンパーニュ」と称されることも。
2. カンパーニャ・ガウーシャ(Campanha Gaúcha)
ウルグアイ国境に近い広大な平原地帯。昼夜の寒暖差が大きく、赤ワインの名産地として知られています。カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどの国際品種が主流で、骨格のしっかりしたエレガントなワインが多いのが特徴。
3. プラナルト・デ・サンタ・カタリーナ(Planalto de Santa Catarina)
標高1,200mを超える高地で、冷涼な気候がピノ・ノワールやシャルドネに最適。繊細でミネラル感あふれるワインが多く、近年注目が高まっています。
ブラジルワインは、長らく国内消費が中心でした。しかし2000年代に入り、品質向上とともに輸出量も増加。世界各国のコンクールで受賞するワイナリーが相次ぎ、国際市場での存在感を強めています。
特にスパークリングワインの分野では、モンテ・レアル(Miolo)、カサ・ヴァルドゥガ(Casa Valduga)、サルトン(Salton)などの生産者が高い評価を獲得。彼らは伝統と革新を融合し、ブラジルらしい明るくフルーティな味わいを世界に発信しています。
ブラジル料理は、肉を中心とした豪快なスタイルが多い一方で、海岸地方では魚介料理も豊富です。
・シュラスコ(炭火焼き肉)には、果実味豊かなメルローやカベルネ・ソーヴィニヨン。
・ムケッカ(魚のココナッツ煮込み)には、トロピカルな香りのシャルドネやヴィオニエ。
・軽めの前菜やサラダには、きめ細かな泡のスパークリングワインが最適です。
ブラジルワインはその多様性ゆえに、さまざまな料理に合わせやすいのも魅力の一つです。
ブラジルワインは、まだ発展途上でありながらも、そのポテンシャルは計り知れません。
陽光に満ちた自然と、移民文化がもたらした職人技が融合し、他のどの国にもない独自のスタイルを築きつつあります。情熱的でフレッシュ、そして明るく前向きなエネルギーを感じさせるブラジルワインは、まさに国そのもののよう。
これから世界のワインシーンで、さらに輝きを放つ存在になることでしょう。