ワイン「ピノ・グリ」上品で芳醇、グラスの中に広がる果実の余韻


「ピノ・グリ(Pinot Gris)」は、白ワイン用のブドウ品種の中でも特に個性豊かで、多彩な表情を見せる存在です。名前に“グリ(灰色)”という言葉が含まれる通り、果皮は灰がかったピンク色をしており、その色素がわずかに反映された淡い黄金色のワインを生み出します。ピノ・グリはフランス・アルザス地方をはじめ、イタリア、ドイツ、アメリカ、ニュージーランド、日本など、世界各地で栽培されており、それぞれの土地の気候や風土により、まったく異なる個性を見せます。

 


フランス・アルザスが誇る芳醇なスタイル

ピノ・グリといえば、まず思い浮かぶのがフランス・アルザス地方。アルザスのピノ・グリは、リッチで厚みのある口当たりと、熟した果実、蜂蜜、スモーキーなニュアンスが特徴です。時には貴腐化したブドウから造られることもあり、芳醇で複雑な甘口ワインとして高い評価を受けています。アルザスでは、ピノ・グリが「高貴な品種(セパージュ・ノーブル)」の一つに数えられ、食卓を彩る格式あるワインとして愛されています。

 


イタリアでは“ピノ・グリージョ”として軽快に

一方、イタリアでは同じ品種が「ピノ・グリージョ(Pinot Grigio)」と呼ばれ、スタイルが大きく異なります。北イタリア、特にヴェネト州やフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州では、ピノ・グリージョは軽やかで爽やかな酸を持ち、すっきりとした辛口白ワインとして人気を博しています。レモンや青リンゴ、洋ナシのようなフレッシュな香りが広がり、日常的に楽しめる親しみやすいワインとして世界中で愛飲されています。

 


ドイツや日本でも多彩な表情

ドイツでは「グラウブルグンダー(Grauburgunder)」と呼ばれ、辛口でミネラル感のあるスタイルが主流です。繊細で上品な酸味が特徴で、バランスの取れたワインが多く造られています。
日本でもピノ・グリの栽培は増えており、特に長野県や北海道では冷涼な気候を生かしたフレッシュで香り高いワインが登場しています。日本産ピノ・グリは、控えめな酸と柔らかい果実味が調和し、和食との相性の良さでも注目を集めています。

 


ピノ・グリと食のペアリング

ピノ・グリの魅力の一つは、幅広い料理と寄り添う万能さにあります。アルザス産の濃厚なピノ・グリはフォアグラや鴨料理、チーズなどリッチな料理と好相性。一方でイタリアのピノ・グリージョは、魚介料理やサラダ、冷製パスタ、寿司などと軽やかにマッチします。日本のピノ・グリなら、旬の野菜を使った和風前菜や天ぷらとも素晴らしい調和を見せます。

 


グラスの中に広がる、灰色の輝き

ピノ・グリは、白ワインの中でもとりわけ“多面的”な品種です。同じブドウでありながら、土地、気候、造り手の哲学によって、繊細にも、力強くも、甘くも、辛くも変化します。グラスの中で輝く淡い黄金色とともに、その奥に秘められた多様性を感じる――それがピノ・グリを味わう醍醐味なのです。

 


まとめ

ピノ・グリは、気軽に楽しめる爽快なスタイルから、熟成を重ねた深みある味わいまで、ワインラバーの心をつかむ万能な品種。もしまだ試したことがないなら、次のワインタイムにぜひ「ピノ・グリ」を選んでみてください。その一杯が、新しいワインの世界への扉を開くかもしれません。