スペインのカタルーニャ地方で生まれた白ブドウ品種「チャレッロ(Xarel·lo)」は、スパークリングワイン「カヴァ(Cava)」の主要品種として世界的に知られています。マカベオ、パレリャーダと並び「カヴァ三兄弟」とも呼ばれる存在で、スペインワインにおいて欠かすことのできない重要な役割を担っています。
しかしチャレッロは、単にブレンド用のブドウではありません。近年では、そのポテンシャルの高さが注目され、単一品種で造られるスティルワイン(非発泡ワイン)も増えています。果実味と酸、そして独特のミネラル感を併せ持つチャレッロは、スペインの新しい白ワインの魅力を語るうえで外せない存在となっているのです。
チャレッロの故郷であるカタルーニャ地方は、地中海性気候の恩恵を受けながらも、内陸部には昼夜の寒暖差が大きいエリアが広がっています。この環境が、チャレッロに厚みのある果実味とフレッシュな酸を同時に与えるのです。
ブドウは比較的早熟で、乾燥にも強く、日照の多い環境でも酸を失わないのが特徴。強い皮を持つため、病害にも比較的耐性があります。結果として、しっかりとしたボディと骨格を持ち、熟成に耐えうるワインが生まれます。
特にペネデス地方(Penedès)は、チャレッロの中心産地として知られ、標高や土壌によってワインの個性が大きく変わる地域です。石灰質土壌からはキリッとしたミネラル感、粘土質からはまろやかな厚みが生まれ、それぞれの畑がチャレッロの多彩な表情を引き出します。
カヴァといえば、シャンパーニュ方式(瓶内二次発酵)で造られるスペインのスパークリングワイン。チャレッロはその骨格を形成する中核的な品種です。マカベオがフローラルで柔らかな香りを、パレリャーダが軽やかさを担うのに対し、チャレッロは力強さと酸、構造をワインにもたらします。
この3品種の中で最も個性が強く、熟成にも耐えるため、長期熟成タイプのカヴァではチャレッロの比率が高いものが多いのです。熟成を経たカヴァでは、チャレッロ由来のナッツやハチミツ、トーストのような複雑な香りが生まれ、時間の経過とともに深みが増していきます。
かつてはカヴァ用ブドウとしての役割が中心でしたが、1990年代以降、カタルーニャでは自然派・テロワール重視の生産者たちがチャレッロの可能性を再発見しました。ステンレスタンク発酵によるフレッシュなタイプから、オーク樽熟成で厚みを出したタイプまで、スタイルは多様です。
チャレッロ単一のスティルワインは、柑橘や白い花の香りに、グレープフルーツのようなほろ苦さと塩味を感じるミネラルが特徴。時にハーブやアーモンド、熟成によってはハチミツやスモーキーなニュアンスも現れます。
その風味は一見シンプルながら奥行きがあり、「地中海の大地そのものを映すブドウ」と評されることもあります。
チャレッロは、その酸と塩味を帯びたミネラル感から、さまざまな料理と調和します。
魚介類とは抜群の相性を誇り、特にアヒージョやカルパッチョ、グリルした白身魚などの地中海料理と合わせると、双方の旨味を引き立てます。
また、オリーブオイルを使った前菜やハーブを効かせた鶏肉料理とも好相性。樽熟タイプのチャレッロなら、ポークソテーや軽めのクリームソースにもよく合います。
スパークリングのカヴァとして楽しむ場合は、食前酒から食後まで通して一本で完結できる柔軟さがあり、パーティーシーンでも重宝されます。
チャレッロは、環境変化に強く、持続可能な栽培に向いたブドウとしても注目されています。多くの生産者がオーガニックやビオディナミ農法を取り入れ、土地本来の味わいを大切にしたワイン造りを行っています。
また、チャレッロは高温にも酸化にも耐性があり、地球温暖化の影響を受けにくいという利点があります。これにより、将来のカヴァや白ワイン生産を支える「次世代の希望の品種」として期待されているのです。
「チャレッロ」は、長らくブレンドの名脇役として活躍してきたブドウですが、その真価は今、単一品種ワインの世界で花開きつつあります。
カタルーニャの太陽と風を受け、力強く、そして繊細な味わいを併せ持つチャレッロは、スペインワインの奥深さを再認識させてくれる存在です。
カヴァを愛する人も、白ワインに新しい発見を求める人も、一度このブドウの魅力をじっくりと味わってみてはいかがでしょうか。