ケンゾーエステート(Kenzo Estate)は、アメリカ・カリフォルニア州ナパ・ヴァレーの奥深くに広がる壮大なブドウ畑を有するワイナリーです。その創設者は、ゲーム業界で知られるカプコン創業者・辻本憲三氏。世界屈指のワイン産地ナパの地に「真に美しいワインをつくりたい」という情熱を持ち、1990年代から構想を練り、2000年代初頭に壮大なプロジェクトとして結実しました。
ナパの中でも標高の高いマウンテンエリアに位置するケンゾーエステートは、総面積約1600エーカー(東京ドーム約140個分)という広大な土地のうち、わずか10%程度がブドウ畑として使用されています。この「自然との共生」を重んじる姿勢こそが、ケンゾーエステートの哲学の象徴です。
ケンゾーエステートの畑は、海抜450〜500メートルの高地に位置し、昼夜の寒暖差が激しいことから、ブドウはしっかりとした酸と凝縮感を兼ね備えた果実に育ちます。霧が立ちこめる朝、太陽が照りつける午後、そして冷え込む夜——その自然のリズムが、ワインに繊細で上品な表情をもたらします。
醸造を手がけるのは、ナパの伝説的ワインメーカー、ハイディ・バレット女史。彼女は「スクリーミング・イーグル」を手がけたことでも知られる実力派で、ケンゾーエステートでもその手腕を存分に発揮しています。彼女のもとで生まれるワインは、パワフルでありながら繊細、濃密でありながらエレガントという、相反する美徳を高次元で両立させています。
ケンゾーエステートのワインの名前は、すべて日本語から取られています。これには、創業者・辻本氏の「日本の感性を世界に伝えたい」という想いが込められています。
紫鈴(rindo):ケンゾーエステートのフラッグシップワイン。カベルネ・ソーヴィニヨンを主体に、メルローやプティ・ヴェルドをブレンド。芳醇な香りと滑らかなタンニン、そして長い余韻が特徴です。
藍(ai):力強さと深みを追求した赤ワイン。熟成ポテンシャルが高く、ナパの雄大さを最も感じさせる1本。
結(yui):ロゼワインでありながら、しっかりとした骨格と華やかさを併せ持つ。食事との相性が抜群で、特に和食と好相性です。
あさつゆ(asatsuyu):ソーヴィニヨン・ブラン主体の白ワイン。ナパでは珍しいスタイルで、朝露のような清らかさと柑橘の爽やかさが際立ちます。
それぞれのワインに込められた言葉の響きと味わいが見事に調和し、まるで日本の四季や情緒をワインで表現しているかのようです。
ケンゾーエステートの魅力は、単なる高品質ワインの提供にとどまりません。ナパ本拠地のワイナリーでは、完全予約制のテイスティング体験が提供され、訪れるゲストは自然と静寂に包まれた特別な時間を過ごせます。ワイナリー自体が一つの芸術作品のように設計され、洗練された空間デザインとホスピタリティが融合しています。
さらに、東京・南青山、京都、名古屋などに直営の「ケンゾーエステートワイナリー」を展開し、日本国内でもその世界観を体験できるのも大きな魅力です。これらの店舗では、ワインと料理のマリアージュを通じて、ケンゾーエステートの哲学を体感できます。
ケンゾーエステートのワインは、世界の評論家から高い評価を受けていますが、その本質はスコアでは測れない“美意識”にあります。日本人ならではの繊細な感性と、ナパの自然が融合したそのワインは、まさに「ナパの宝石」。一口含めば、時間の流れがゆっくりと解けていくような、静謐で深い余韻を感じさせます。
「ワインとは、人と自然が奏でる芸術である」——この信念のもと、ケンゾーエステートは今も進化を続けています。その一滴には、辻本憲三氏の情熱、職人たちの技、そしてナパの大地の息吹が確かに宿っているのです。
ケンゾーエステートは、単なるワインブランドではなく、「自然」「芸術」「情熱」が融合した“体験そのもの”です。
美しい日本語の名前を持つワインたちは、まるで詩のように静かに語りかけてきます。
ナパの空と大地、そして日本人の心が出会った場所——それがケンゾーエステートの真の魅力なのです。