クノワーズ(Counoise)は、フランス・南ローヌ地方を中心に栽培される赤ワイン用ブドウ品種です。名前の響きはややマイナーに聞こえるかもしれませんが、実はあの世界的に有名な銘醸地「シャトーヌフ・デュ・パプ」の伝統的なブレンドに使用される重要な品種のひとつです。
このブドウは、主にグルナッシュ、シラー、ムールヴェードルなどの強い個性を持つブドウの中で、軽やかさと香りの複雑さをもたらす役割を果たしています。クノワーズは色が比較的淡く、タンニンも穏やかで、赤系果実やスパイスのニュアンスを豊かに表現します。ブレンドに少量加えるだけで、ワイン全体の香りとバランスが格段に向上するため、まさに「裏方の名脇役」と呼ぶにふさわしい存在です。
クノワーズの主な産地は、フランス南東部のローヌ渓谷。特に「シャトーヌフ・デュ・パプ」では、13種類もの品種が使用可能とされていますが、その中でクノワーズは歴史的にも重要な位置づけにあります。
とはいえ、このブドウは収穫量が少なく、成熟もやや遅いため、他の主要品種に比べると栽培が難しいという特徴があります。そのため、長らくブレンド用の脇役として扱われ、単一品種で造られることはほとんどありませんでした。
しかし近年、地元生産者の中には「クノワーズ単一ワイン」に挑戦する動きも見られます。その軽快な酸味と華やかなアロマは、現代の食文化やワインのトレンド——すなわち「重すぎず、飲み疲れしない赤」——に見事に合致しているのです。
クノワーズの魅力は、何といってもその香りの豊かさと軽やかな味わいにあります。
グラスに注ぐと、ラズベリーやチェリーといった赤系果実の香りがまず立ちのぼり、続いてスミレのような花のニュアンス、さらに黒胡椒やハーブのスパイシーな要素が顔を出します。味わいは繊細で、酸味がしっかりしており、ボディは中程度。タンニンはきめ細かく、口当たりはなめらかです。
このバランスの良さが、ブレンドワインにおいても重宝される理由のひとつ。グルナッシュの果実味やシラーのスパイス、ムールヴェードルの骨格に、クノワーズが加わることで、香りの層が増し、全体にエレガンスがもたらされます。
一方で、単一品種のクノワーズに注目する生産者も増えています。南仏では、気候変動による気温上昇に対応するため、軽やかでフレッシュなワインを求める動きが広がっており、クノワーズの個性が再評価されているのです。
アメリカのカリフォルニア州やオレゴン州でも、ローヌ系品種を扱うワイナリーがクノワーズを試験的に栽培しており、果実味が前面に出たチャーミングなスタイルのワインを生み出しています。
特にカリフォルニアでは、クノワーズの軽やかなベリー香と控えめなアルコール度数が、ピノ・ノワールのように親しみやすい赤ワインとして人気を集めつつあります。
クノワーズの穏やかなタンニンと鮮やかな酸は、食事との相性にも優れています。
重厚な肉料理よりも、鶏肉、豚肉、ハーブを使った煮込みや、きのこのソテーなどとの組み合わせが絶妙です。また、トマトベースのパスタやラタトゥイユのような南仏料理とも相性が良く、ワインの赤系果実の風味が料理の甘酸っぱさを引き立てます。
冷やして楽しむのもおすすめで、軽く冷やすことで酸味がより際立ち、暑い季節でも爽やかに飲むことができます。
長年、グルナッシュやシラーの陰に隠れていたクノワーズですが、近年は「軽やかさ」と「香りの複雑さ」を重視するワイン造りの潮流に乗り、新たな注目を集めています。
環境への配慮や自然派ワインの人気が高まるなか、果実本来のピュアな風味を生かすクノワーズは、今後さらに存在感を増していくでしょう。重厚な赤から軽やかで香り高い赤へ——そんな時代の変化を象徴する品種のひとつが、まさにこのクノワーズなのです。
「クノワーズ」は、華やかな香りと繊細な味わいで南仏のブレンドに欠かせない存在でありながら、単一品種としても新たな魅力を発揮するブドウです。主張しすぎない優しさの中に、確かな個性が息づく——それがクノワーズの真の魅力といえるでしょう。