孤高のピノ・ノワール「カレラ」が語るカリフォルニアの真髄


カレラ・ワインとは

「カレラ(Calera)」は、アメリカ・カリフォルニア州のセントラル・コースト、マウント・ハーランAVAに拠点を構えるワイナリーです。1975年、ジョシュ・ジェンセン(Josh Jensen)によって創設されました。ブルゴーニュの名門「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ」での修業経験を持つジェンセンが、自らの理想とするピノ・ノワールを追い求めた結果、たどり着いたのがこの険しい山地でした。

 

 

「カレラ(Calera)」とはスペイン語で「石灰窯」を意味します。その名の通り、ワイナリーが位置する土地は石灰質の土壌に覆われており、まさにブルゴーニュのコート・ドールを思わせる環境です。ピノ・ノワールの栽培にとって理想的なこの地で、カレラはアメリカワインの歴史に新たな一章を刻みました。

 


創業者ジョシュ・ジェンセンの情熱

ジョシュ・ジェンセンはスタンフォード大学を卒業後、ヨーロッパ各地を旅し、ブルゴーニュでワイン造りに魅了されました。特に「ロマネ・コンティ」の造り手たちが大切にしていた“テロワール”という概念に深く共鳴し、自らもピノ・ノワールの聖地をカリフォルニアで探す旅に出ます。

 

 

1970年代当時、アメリカではまだピノ・ノワールの栽培が難しいとされていました。しかし、ジェンセンは石灰岩層を持つ土地を求めてカリフォルニア全土を探索し、最終的に辿り着いたのが標高約670メートルのマウント・ハーランでした。インフラもない山奥に畑を切り拓くという壮絶な挑戦の末、1975年にワイナリー「カレラ」を設立。まさに信念と執念が生んだ奇跡のワインです。

 


石灰質土壌が生むエレガンス

カレラの最大の特徴は、そのテロワールにあります。マウント・ハーランAVAは海抜の高い山地に位置し、昼夜の寒暖差が大きく、ブドウがゆっくりと熟すことで酸と果実味のバランスが絶妙になります。さらに、土壌には石灰岩が多く含まれており、このミネラル分がワインに独特の張りと繊細なニュアンスをもたらします。

 

 

この環境は、まさにブルゴーニュの理想に通じるもの。実際、カレラのピノ・ノワールはしばしば「アメリカのロマネ・コンティ」と称されるほど高い評価を受けています。タンニンは極めてきめ細かく、赤系果実やスパイス、森の下草を思わせる複雑な香りが層をなし、長い余韻を楽しむことができます。

 


単一畑の哲学

カレラのもう一つの特徴は、ブルゴーニュの「クリマ(区画)」の思想を取り入れた単一畑のワイン造りです。ジェンセン、セレック、リード、ミルズ、ライアンといった畑名を冠したピノ・ノワールは、それぞれ異なる個性を持ち、テロワールの違いを如実に表しています。

 

 

たとえば「ジェンセン・ヴィンヤード」はエレガントで調和のとれた味わい、「リード・ヴィンヤード」はスパイシーで骨格のあるスタイル、「ミルズ・ヴィンヤード」は柔らかく華やかな香りが特徴です。同じブドウ品種でありながら、区画ごとにこれほどまで表情が変わるのは、まさにテロワールの妙と言えるでしょう。

 


手間を惜しまない職人気質の醸造

カレラでは、収穫されたブドウを区画ごとに手作業で選別し、自然酵母による発酵を行います。発酵後はフレンチオーク樽で18〜24か月もの長期熟成を経て瓶詰めされます。新樽比率も控えめにし、あくまでブドウ本来の香りと土地の個性を引き出すことを最優先としています。

 

 

また、ワイナリー自体も重力を利用した「グラヴィティ・フロー・システム」を採用しており、ポンプを使わずにワインを移動させることで、繊細なピノ・ノワールの風味を損なわないよう工夫されています。まさに自然と調和するクラフツマンシップの象徴です。

 


世界が認めたピノ・ノワール

カレラのワインは、1980年代から世界のワイン愛好家や評論家の間で注目を浴びてきました。特にロバート・パーカーが「カレラはアメリカのグラン・クリュ」と評したことにより、その名は一躍世界に広まりました。

 

 

現在ではピノ・ノワールの他に、シャルドネやヴィオニエ、さらにはカベルネ・ソーヴィニヨンも手掛けていますが、やはり看板はピノ・ノワール。いずれのワインもエレガントで奥行きがあり、熟成によってより複雑な表情を見せてくれます。

 


受け継がれる精神と新時代の歩み

創業者ジェンセンは2018年に引退しましたが、カレラの精神は今も変わらず受け継がれています。現在はダックホーン・ヴィンヤーズ傘下のもと、伝統を守りながらも持続可能なワイン造りを進めています。オーガニック農法の導入や水資源の再利用など、環境への配慮を重視した姿勢も高く評価されています。

 


結び:孤高の美学

カレラ・ワインは、単なるカリフォルニア・ワインではありません。そこには、ブルゴーニュの精神をアメリカの大地で再現しようとした、一人の造り手の情熱と信念が息づいています。華やかでありながら静謐、力強くも繊細。カレラのピノ・ノワールを口にすれば、ジョシュ・ジェンセンが夢見た「完璧なテロワール」の片鱗を感じ取ることができるでしょう。

 

 

カレラは、まさに“孤高のピノ・ノワール”。カリフォルニアワインの中でも、特別な輝きを放ち続けています。