近年、世界中で注目を集めている「オレンジワイン」。その名の通り、鮮やかなオレンジ色を帯びた美しい液体が印象的ですが、オレンジ果実を使ったワインではありません。
オレンジワインとは、白ブドウを赤ワインのように皮や種ごと発酵させて造るワインのことを指します。この醸造方法により、通常の白ワインにはない深いコクや複雑な香り、渋み(タンニン)が生まれます。
従来、白ワインは果汁のみを発酵させるため、すっきりとした味わいが特徴でした。しかし、オレンジワインは果皮から成分を抽出することで、白と赤の中間的な存在とも言える独自の風味を持ち、ワインの新しいジャンルとして確立されています。
一見モダンな印象を持つオレンジワインですが、そのルーツは**約8000年前のジョージア(旧グルジア)**にさかのぼります。ジョージアは世界最古のワイン生産地の一つであり、粘土製の壺「クヴェヴリ(Qvevri)」を用いてワインを醸造してきました。
このクヴェヴリに白ブドウを皮や種ごと入れ、自然発酵させる伝統的な手法こそが、現代のオレンジワインの起源です。
その後、このスタイルは長らく忘れられていましたが、2000年代初頭からイタリア北東部のフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州やスロヴェニアなどで再び脚光を浴びることになります。自然派ワイン(ナチュラルワイン)の流れの中で、オレンジワインは「原点回帰」「手仕事の象徴」として注目され、今では世界各地のワイナリーがこの製法を取り入れるようになりました。
オレンジワインの特徴を理解するには、その製法を知るのが一番です。
通常の白ワインは、収穫したブドウを破砕してすぐに果汁だけを取り出し、皮や種を除いて発酵させます。一方、オレンジワインでは、赤ワインと同じように果皮・種を果汁とともに一定期間発酵させる「マセラシオン(醸し)」を行います。
この醸し期間は数日から数か月に及ぶこともあり、その長さによって色の濃さやタンニンの強さが変化します。結果として、見た目は淡い琥珀色から濃いオレンジ色、あるいは銅色まで幅広く、香りもドライフルーツやナッツ、スパイス、紅茶などを思わせる独特のニュアンスが現れます。
さらに、酸化をコントロールしながら造るため、少し酸化的な香り(シェリーやアーモンドのような風味)が加わることもあります。この複雑さこそ、オレンジワインの魅力の源と言えるでしょう。
オレンジワインの魅力は、その食中酒としてのポテンシャルの高さにもあります。
タンニンと酸を併せ持つため、肉料理から魚料理まで幅広く対応できるのが特徴です。
例えば:
和食:味噌や醤油を使った料理、焼き魚、煮物など
イタリアン:リゾット、きのこのパスタ、ハードチーズ
エスニック:スパイスを効かせたカレーやタンドリーチキン
特に和食との相性は抜群で、旨味や発酵の風味を持つ味噌や醤油、出汁の要素とよく調和します。ナチュラルな造りのオレンジワインは、発酵文化を共有する日本料理と相性が良いと言われるのも納得です。
現在では世界中のワイン産地でオレンジワインが造られていますが、特に有名なのは以下の地域です。
ジョージア:伝統的なクヴェヴリ製法による濃厚で力強い味わい。
イタリア(フリウリ):洗練されたバランスとミネラル感が特徴。
スロヴェニア:自然派志向の強い生産者が多く、個性的で芳香豊か。
フランス(ローヌやロワール):軽やかでモダンなスタイルが人気。
日本:山梨や長野、新潟などでも、国産ブドウで挑戦するワイナリーが増加中。
日本の造り手も、甲州やデラウェアなどの白ブドウでオレンジワインを手がけ、国内外で高い評価を得ています。地域のテロワールとナチュラルな製法が融合したオレンジワインは、今後ますます多様な表現が期待されます。
オレンジワインはしばしば「ナチュラルワイン(自然派ワイン)」の一種として語られます。
確かに、野生酵母による自然発酵、酸化防止剤の極小使用、無濾過などの工程を採用する生産者が多く、“自然な造り”の象徴的存在と言えます。
しかし、オレンジワイン=ナチュラルワインというわけではありません。
醸造技術が確立された現在では、伝統的手法を踏まえながらも、より安定した品質でオレンジワインを生み出す造り手も増えています。ナチュラル系特有のクセが苦手な人でも楽しめる、クリーンでフルーティーなタイプも多くなっています。
オレンジワインは、ワインの固定観念を覆す存在です。
白でも赤でもない、独自の色と味わい。古代の製法でありながら、現代的な感性にも響くスタイル。
一杯の中に「歴史」「自然」「人の手仕事」が凝縮されたオレンジワインは、まさに“飲む文化体験”とも言えるでしょう。
その存在は、ワインを単なる嗜好品から「哲学や価値観を共有する飲み物」へと昇華させています。
オレンジワインは、過去と未来をつなぐ架け橋です。
古代ジョージアの伝統に根ざしながら、現代の食文化やサステナブルな価値観と共鳴しています。
鮮やかな色合い、複雑な香り、そして人の心を惹きつける奥深い味わい。
それらすべてが、オレンジワインを「ただの流行」ではなく、持続可能なワイン文化の一翼として輝かせています。
グラスに注がれたその一杯から、あなたも自然と時間の旅へ出かけてみませんか?