山梨県甲州市勝沼町。ぶどう畑が広がるこの地に、日本ワインの歴史を語るうえで欠かせない存在「まるきワイナリー」があります。明治10年(1877年)創業という、日本最古の民間ワイナリーとして知られ、約150年にわたり日本ワインの礎を築いてきました。当時はまだ「ワイン」という飲み物が庶民にはなじみの薄い時代。そんな中で、まるきワイナリーは国産ぶどうによる本格ワイン造りを始め、日本人の手によるワイン文化の芽を育てたのです。
創業当初は、地元の農家が中心となってワイン造りを始めたといわれます。西洋文化が日本に流れ込み、近代化の波が押し寄せる中、勝沼のぶどう農家たちは新たな価値を模索しました。その挑戦の象徴こそが「まるきワイナリー」であり、現在もその精神は変わることなく受け継がれています。
まるきワイナリーの最大の特徴は、ぶどう栽培への徹底したこだわりにあります。自社農園では、甲州、マスカット・ベーリーAといった日本固有品種を中心に、シャルドネやメルローなどの国際品種も栽培。標高約600メートルの冷涼な気候と、日照時間の長さ、昼夜の寒暖差が生み出す環境が、香り高く繊細な果実を育てます。
さらに、同ワイナリーでは「サステナブル農業」を積極的に推進。除草剤や化学肥料の使用を抑え、自然と共生するぶどう栽培を目指しています。特に注目すべきは、環境に優しい「グリーン・ハーベスト」や「草生栽培」の導入。これにより土壌の保水力と微生物の多様性を維持し、健全なぶどうの成長を支えています。
まるきワイナリーのワインがどこか優しく、奥深い味わいを持つのは、この土地と自然への敬意が息づいているからにほかなりません。
まるきワイナリーは、単なる伝統の継承にとどまらず、常に新しい時代のワイン造りにも挑戦してきました。中でも注目されるのが、酸化防止剤の使用を極力抑えた「ラフィーユ」シリーズ。フランス語で“娘”を意味する名が示すように、自然の恵みを素直に表現したピュアなワインとして人気を集めています。
また、野生酵母による自然発酵やアンフォラ(素焼きの壺)を用いた醸造など、ナチュラルワインの要素も積極的に取り入れています。これらの試みは、単なるトレンドではなく、「人の手を加えすぎないことで、ぶどうそのものの力を最大限に引き出す」という信念の表れです。
その結果生まれるワインは、華やかな香りや力強い果実味よりも、しっとりとした余韻とバランスの良さが特徴。日本人の繊細な味覚に寄り添う味わいとして、多くのワイン愛好家から支持を集めています。
まるきワイナリーは、国内外のコンクールでも高い評価を得ています。「日本ワインコンクール」では数々の金賞を受賞し、海外のワインフェアにも積極的に出展。日本ワインの魅力を世界へ広める役割も担っています。
特に、甲州種を使った白ワインは国際的にも注目されており、爽やかな酸味とほのかな苦味が和食との相性抜群。寿司や天ぷら、繊細なだし料理とも自然に寄り添うその味わいは、日本ならではの食文化とともに世界の舌を魅了しています。
まるきワイナリーが歩んできた道のりは、まさに「日本ワインの歴史そのもの」。古き良き伝統を守りながらも、新しい風を柔軟に取り入れる姿勢は、これからの日本ワインの未来を示す羅針盤といえるでしょう。
まるきワイナリーは見学やテイスティングも充実しています。レンガ造りのワインセラーや、明治時代の趣を残す建物は、まるでタイムスリップしたかのような雰囲気。ガイド付きツアーでは、ぶどう畑の散策や醸造工程の見学を通じて、ワイン造りの奥深さを肌で感じることができます。
併設のショップでは、限定ワインやお土産に最適なギフトセットも販売されており、観光客にも人気です。ワイン片手に甲州の自然を眺めながら過ごすひとときは、まさに至福の時間。
150年近い歴史を持ちながら、今もなお進化を続けるまるきワイナリー。その姿勢は「伝統とは、変わり続ける勇気である」という言葉を体現しています。
勝沼の風土に根ざしたぶどう、自然と調和する栽培、そして人の情熱が織りなす一杯のワイン。そこには、ただの飲み物を超えた「物語」があります。まるきワイナリーはこれからも、日本ワインの未来を静かに、しかし確かに照らし続ける存在であり続けるでしょう。